恐竜が来なければ、世界を支配し続けた生き物、エリオプス | 恐竜化石に関するコラム【三葉虫,アンモナイト,サメの歯】

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恐竜以前、地球を支配していた巨大両生類

恐竜が地球を支配する以前、陸上生態系の主役は、まったく別の生き物たちでした。その代表格が、巨大両生類エリオプスです。

今から約2億9,500万年前のペルム紀。まだ恐竜は存在せず、哺乳類も誕生していない時代です。その「恐竜前夜の世界」で、水辺という重要な生態系を押さえ、頂点に近い立場にいたのがエリオプスでした。体長は1.5〜2メートル、最大では3メートル級に達したとも考えられています。現代の両生類からは、到底想像できないスケールです。

両生類のイメージを覆す、巨大で不器用な捕食者

両生類と聞くと、カエルやイモリのような小型で華奢な生き物を思い浮かべる方が多いでしょう。しかしエリオプスは、そのイメージを大きく裏切ります。40センチ近い巨大な頭骨を持ち、口を開けば円錐形の鋭い歯が並んでいました。この歯は「ラビリントドント歯」と呼ばれ、内部が迷路状の構造になっており、獲物をしっかりと捕らえるための実戦的な武器でした。

意外なことに、エリオプスは決して万能な捕食者ではありませんでした。魚のように水中を自在に泳げたわけでもなく、爬虫類のように陸上を素早く走れたわけでもありません。太く短い尾、重く密度の高い骨格を持つ体は、どちらかといえば不器用な印象を受けます。

速さより確実さを選んだ、生き残りの戦略

それでも彼らは、水辺という「陸と水の境界」に身を置くことで成功しました。水際でじっと待ち伏せし、近づいてきた魚や小型の四肢動物を一気に捕らえる……速さや派手さではなく、確実性を重視した狩りのスタイルです。完璧ではありませんが、それこそが当時の環境における最適解だったのです。

エリオプスが特別な存在とされる理由は、他の両生類に比べて研究が進んでいるためです。驚くべきことに、皮膚がミイラ状に保存された化石も見つかっており、体表はヌルヌルしたものではなく、細かな突起に覆われたゴツゴツした質感だったことが判明しています。想像ではなく、証拠によって語れる生き物なのです。

エリオプスの時代は、なぜ終わったのか

では、なぜエリオプスの時代は終わったのでしょうか。理由は、環境の変化と爬虫類の台頭です。乾燥した環境への適応力、効率的な呼吸、軽快な移動能力を備えた爬虫類が主役になると、水辺を拠点とした巨大両生類は次第に姿を消していきました。

しかし、それは「失敗」ではありません。もし恐竜が現れなかったら、もし爬虫類が覇権を握らなかったら、エリオプスの系譜はさらに大型化し、進化を続けていた可能性もあります。巨大なワニ型両生類が、地球の水辺を支配する未来も、決して非現実的な想像ではないのです。