恐竜の歯化石に接着剤? 発掘現場で行われる「安定化処理」と修復の違い | 恐竜化石に関するコラム【三葉虫,アンモナイト,サメの歯】

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執筆・監修
藤田 大 ジュラ株式会社 代表取締役 / 理学修士(広島大学大学院修了)
創業18年(2008年設立) 累計取扱1万超 3300件超の購入者評価 メディア実績・書籍監修多数

広島大学大学院理学研究科 修士課程修了(地球惑星システム学専攻)。専門は地学・鉱物学。累計1万点を超える化石・隕石の鑑定・販売に携わり、NHK BSプレミアム「南極の秘密」CG制作や、書籍『みんなが知りたい!化石のすべて』の監修、成城学園博物館のパネルデザイン等を担当。実物標本の知見に基づき、科学的根拠のある情報発信を行っています。

恐竜の歯化石に接着剤? ― 発掘現場で行われる「安定化処理」とは

岩石に埋まった恐竜の歯化石に安定化処理を施す様子(イメージ画像)

恐竜の歯化石を観察していると、表面に細かな亀裂が見られることがあります。

こうした亀裂を見て、「一度割れた歯を接着剤で修復したものではないか」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、化石の発掘現場では、壊れたものを接着する「修復」とは別に、化石が壊れることを防ぐための「安定化処理(Stabilization)」が行われています。

今回は、弊社と10年以上にわたって取引を続けている、アメリカの現役化石ハンターから直接聞いた話をもとに、実際の発掘現場で行われている安定化処理についてご紹介します。

化石は発掘時に壊れることがある

恐竜の歯は、数千万年という長い年月を地中で過ごしてきました。

化石化によって硬く保存されている場合もありますが、その一方で、地中で生じた亀裂や風化などによって、非常にもろくなっている標本もあります。

特に、硬い岩石に埋まっている歯化石を取り出す際には注意が必要です。

周囲の岩石を取り除く作業中に、歯が亀裂に沿って割れたり、細かな破片に分かれたりするおそれがあるためです。

そこで、発掘の段階から化石を保護する処理が必要になることがあります。

安定化処理には浸透性の高い接着剤が使われる

弊社と長年取引のある化石ハンターによると、発掘される歯化石の多くには、安定化処理が施されているそうです。

ただし、これは彼自身の発掘経験に基づく話であり、すべての歯化石に当てはまるわけではありません。

安定化処理には、水のように粘度が低く、細かな隙間に浸透しやすい特殊な接着剤が使用されることがあります。

一般的な接着剤のように表面を貼り合わせるだけでなく、化石に生じた細かな亀裂に浸透させ、補強することが目的です。

これによって、発掘作業中に歯が割れたり、崩れたりする危険性を減らすことができます。

発掘しながら、少しずつ化石を守る

実際の発掘では、どのように安定化処理が行われるのでしょうか。

今回話を聞いた化石ハンターは、アメリカ・モンタナ州などに分布するジュディスリバー層を例に挙げて説明してくれました。

硬い岩石の中から歯化石が見つかった場合、まず歯の一部が露出した段階で、浸透性の高い接着剤を塗布します。

接着剤が細かな亀裂や隙間に浸透することで、歯が割れたり崩れたりする危険性を減らします。

その後、周囲の岩石を少しずつ取り除き、必要に応じて再び接着剤を塗布します。

この作業を繰り返しながら、歯を安全に取り出していくのです。

化石ハンターによると、柔らかい堆積物から見つかった歯では、こうした処理がそれほど必要にならないこともあるそうです。

つまり、安定化処理の必要性は、化石そのものの保存状態や、周囲の岩石の性質によって変わります。

「安定化処理」と「修復」は何が違う?

ここで重要なのが、安定化処理と修復の違いです。

例えば、一本の歯が割れずに発見されたものの、細かな亀裂が入っていて、そのままでは発掘中に壊れてしまう可能性があったとします。

この歯に接着剤を浸透させ、割れないように補強するのが安定化処理です。

一方、すでに二つ以上に割れてしまった歯の破片を、接着剤でつなぎ合わせるのが接合修復です。

さらに、歯の一部が欠けている場合、その部分を樹脂やパテなどで補う処理もあります。

これらは目的や作業内容が異なります。

もちろん、いずれも化石を保存するために行われる処置ですが、標本の状態を理解するうえでは、この違いを知っておくことが大切です。

亀裂があるからといって、修復品とは限らない

今回、化石ハンターに弊社が仕入れた歯化石について尋ねたところ、興味深い説明がありました。

それらはすべて発見時に安定化処理を施したもので、現在見られる亀裂は、もし接着剤を使っていなければ、そこから歯が割れてしまっていた可能性がある部分だというのです。

それ以外の部分は発見時の状態を保っているとのことでした。

このように、一見すると修復の跡に見える部分にも、さまざまな事情があります。

ただし、外観だけで安定化処理と接合修復を正確に区別することは、必ずしも容易ではありません。処理内容を知るには、実際に発掘した人や標本の準備作業を行った人からの情報が重要になります。

化石の価値を考えるうえで大切なこと

化石を選ぶ際、「接着剤が使われているかどうか」を気にされる方もいらっしゃると思います。

しかし、接着剤が使用されていること自体が、必ずしも標本の価値を大きく損なうわけではありません。

発掘時に適切な安定化処理を行ったからこそ、壊れずに保存できた標本もあるからです。

一方で、破片をつなぎ合わせたものや、欠損部分を大きく復元したものについては、その処理の内容や範囲が、標本を評価するうえで重要になります。

大切なのは、処理の有無だけで判断するのではなく、どのような目的で、どの程度の処理が施されているのかを理解することでしょう。

何千万年もの時を経た恐竜の歯を、できるだけ良い状態で後世に残す。

発掘現場で行われる安定化処理は、そんな化石保存のための大切な技術の一つなのです。

取材・著作権について

本記事は、ジュラ株式会社(化石セブン)が10年以上にわたり取引を続けているアメリカの現役化石ハンターから直接得た情報をもとに、関連する化石保存技術の資料を参照して独自に構成したものです。

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