徳島県化石研究会会長の鎌田誠一氏のコラム。最高のコンビ、化石友人高木正信さんと共に。

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最高のコンビ、化石友人高木正信さんと共に

恩師、久米先生との化石採集は自然にとけ込み、命の尊さや人としての生き方を学び、愛妻、ヒサエさんとチビちゃんとの採集には、自然と戯れ遊び恩恵を受け楽しみました。そして高木さんとは最高に息の合う化石友人として、わき目もふらず化石採集のみに一直線でした。彼との採集は時間を惜しんで食事無しは当然、観光地にも目もくれず、不眠不休に近い採集行程で国内東西南北神出鬼没でした。

彼はもともと香川県の化石グループに属していましたが束縛がいやで脱会、一匹狼で行動していました。そんなところが自由な生き方と行動をしていた私と馬が合ったのかもしれません。そもそも彼とのはじめての出会いも忘れられないエピソードがあります。

彼との出会いは1989年、淡路の三原運動公園の第三期造成工事の現場で、ここは私が1986年の第二期造成工事中に新種のスッポン甲羅化石(Trionyx sp. 1995年、徳島県立博物館へ寄贈)を発見した場所でした。

(新種と思われるスッポンの甲羅化石)

ここはアンモナイトのパキディスカスが多く見つかることが有名で、休日など近県から多くのマニアが訪れていました。私もご他聞に漏れず産地を訪れていましたが、私はマニアが少ない雨降りに泥にまみれ、または夜中に星の瞬きを背にうけて懐中電灯を頼りにはいつくばりながら探索をしていました。工事も終盤になり採集をあきらめたマニアが一人二人と産地を離れ、ついには粘りがちで私の独り舞台となりました。が、ふっと気がつくともう一人、誰かわかりませんが探索している人間がいました。「ねばい男がいる」と自分のことを棚にあげ、相手が帰るまで負けるものかと探索を続けました。ねばりにねばり、探索する場所がなくなり最後にブルドーザが岩を砕き走った後の横にできたうねを探すことに決め、バールで崩し、かき混ぜ探索をしだしましたが、ふっと顔をあげるとねばい彼も私と同じことをしているのです。私は西から東に、彼は東から西へ。負けるものか馬力をかけて掘り進み、そして一時間後、丁度中ほどで彼と鉢合わせをしたのです。そしてそこではじめてお互いが口を開き、話をするうちに互いに同じような考えをもっていることがわかり、その場で打ち解け旧友のような感覚を共にもつ出会いとなりました。

(高木さんとはじめての出会いでの記念写真)

彼と知り合った後は、久米先生、ヒサエとチビちゃんとの同行の採集以外に、私の単独採集が無くなり彼との採集を共にする機会が多くなりました。とにかく私は採集にはどこに行くにも自家用車をすべて利用します。その方が時間も行き先も自由に思うが侭になり便利で、化石もダンボール箱で整理しながら多く積めます。彼もどこに行くにも車を利用していましたが、彼とのコンビを組んでからは車一台に乗り合わせ、車酔いし助手席が苦手な私が運転、助手席でも酔わない彼がナビゲーターを勤めました。

彼とは仕事が休みになればいつも国内中の産地を訪ねて奔走しましたが、一番思い出深いのは東北地方の採集旅でした。何日もかけての日程の中で宿での宿泊は、旅の汚れを落とすために風呂を利用した、たった1日、不眠不休か仮眠は車中で、どうしても食事をとらなければならない状態になると持ち込んだカセットコンロでインスタントラーメンをすすりながら、岐阜・宮城・岩手と一週間の採集旅をしました。彼も私も大の負けず嫌いで化石の採集に取り組みだすと二人とも絶対根を上げず、納得するまで石を割り、掘り続けました。宮城県の山中では林道に出来た吹き溜まりの1メートル近く積んだ雪に阻まれ車が進めない状況に陥りましたが産地までもう少し、車を乗り捨て徒歩30分で産地に到着しました。そこは雪解けで地層が緩み、地崩れしていた岩塊に無数のホタテが見えていました。

(宮城県、ホタテの産地にて)

写真で彼が右腕をおいているホタテがたくさん入っている大きな母岩、それは私が見つけた標本で、重さは優に60キロを楽に超えていました。普通はとても無理だと思いますがそこは負けず嫌い私、母岩の厚みを平均するようタガネで削り、背負子にうまいこと荷作りができました。やっとのおもいで背負い立ち上がり車まで徒歩で向かいました。

(60キロ以上の大きな母岩を背負う)

結局写真のような直立姿勢で歩けたのは10分程度、後は背負った重さで次第に前かがみになり、最後には牛馬のように背に負ったまま四つばいで一時間近くかけてはって車にたどり着きました。

着いたときにはズボンのひざ部分は擦り切れ、手足の震えが止まらず息は切れ疲労困憊でした。しかし、そのはいつくばっての前進の御蔭で、目線が低くなった御蔭で新鮮な発見がありました。雪解けの水、地道を削り掘り進んで流れる冷たい水の中に、おそらく蛙の卵でしょうか、産み付けられ脈々と息づいているのが観察できたのです。そうして絶対あきらめずに採集し持ち帰った化石はやはり何年たっても強い愛着と思い出、そして化石以外での発見の記憶も色あせないものなのです。また岩手の三葉虫探しでは産地から車までの引き上げの道中で、突然頭上の崖から下りてきたカモシカと目の先数メートルでの出会いがあり、彼と私の目に涙が滲むほどの深い感動をうけた思い出もできました。

化石の採集、過去に生きた生命の証との出会い、そしてそこに今も存在する命との出会い、高木さんとの出会いがもたらした思い出は、今も私の心の中の標本箱に風化すること無く色鮮やかに蓄積されています。

そして次回掲載は7月ですが、この月の忘れられない思い出として、過去に10年継続で催した化石展や、今年丸5年ぶりに開催する化石展についてのことを話したく思います。

鎌田誠一氏、「私流、化石の楽しみ方」

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