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- ナノティラヌスはティラノサウルスの幼体なのか?30年以上続く論争と最新研究【2026年版】

【2026年10月追記】ナノティラヌスをめぐる研究の進展について
本記事は、2020年に発表された研究成果をもとに、当時のナノティラヌスをめぐる議論を紹介したものです。
その後、2024年から2025年にかけて新たな研究成果が相次いで発表され、ナノティラヌスをティラノサウルス・レックスとは異なる独立した属とする見解が、再び強く支持されるようになりました。
記事末尾に最新研究の内容を追記していますので、あわせてご覧ください。
2020年のはじめ、長年語られてきたあのホットなトピックが、ついに終結を迎えたかに思われました。
小型のティラノサウルス類に分類される恐竜「ナノティラヌス」は、独立した属なのか、それともティラノサウルス・レックスの幼体なのか……。化石コレクターなら、一度は耳にしたことがある議論でしょう。
2020年、新たな研究成果が発表され、長年続いた論争に一つの答えが示されました。
ナノティラヌスという独立した属を認める必要はなく、これまでナノティラヌスと考えられてきた小型の化石は、ティラノサウルス・レックスの幼体である、という内容です。
この議論は30年以上も続けられてきました。
この熱い議論は、じつに30年以上も続いてきました。
1988年、ナノティラヌスという属が提唱されました。しかし、その後も独立した属なのか、ティラノサウルス・レックスの成長途中の姿なのかについて、研究者の意見は分かれていました。
2001年になると、議論は一段と白熱します。ニックネーム「Jane(ジェーン)」、標本番号「BMRP 2002.4.1」として知られる骨格標本が発見されたからです。
ジェーンは2001年、米国モンタナ州のヘルクリーク累層で見つかりました。復元された全長は約6.5メートルで、最大級の標本であるスー(Sue)のほぼ半分。体重は1トン前後と推定されています。
体格だけ見れば、ティラノサウルス・レックスの幼体、あるいは亜成体と考えることもできます。一方で、独立した属に属する小型の恐竜だった可能性も否定できませんでした。
史上最大級のティラノサウルス・レックスとして知られるスコッティやスーと比べると、ジェーンは単に小さいだけではありません。全体的にほっそりとして脚が長く、顎に並ぶ歯の数も多いという特徴がありました。
この「小さな暴君」の登場によって、ナノティラヌスを独立した属とみなすべきか、それともティラノサウルス・レックスの幼体と捉えるべきなのか……議論は再び燃え上がることになったのです。
2000年代に入ると、徐々にティラノサウルス・レックスの幼体説が有力になってきました。
ジェーンは2001年に発見され、数年間の準備作業を経て、2005年に米国イリノイ州のバーピー自然史博物館で公開されました。
同年には、この小型ティラノサウルス類をめぐる学術会議も開催されました。
当時、研究者の間では、こうした小型の化石をティラノサウルス・レックスの幼体と解釈する見方が有力になりつつありました。ただし、独立した属であると考える研究者もおり、議論が完全に決着したわけではありませんでした。
多種多様な議論が繰り広げられてきました。その一例を紹介します。
しかし、疑問は残りました。
ナノティラヌス・ランセンシスとされた化石では、上顎の片側に14~15本、下顎の片側に17本ほどの歯が並びます。ところが、一般的なティラノサウルス・レックスの成体では、上顎片側に11~12本、下顎片側に11~14本程度とされています。
この違いから、「やはり別の恐竜なのではないか」という指摘がありました。
一方で、歯の本数は成長に伴って変化する場合があります。
同じティラノサウルス類のゴルゴサウルスでは、成長に伴って歯の数が減少するとする研究があります。また、タルボサウルスでは、幼体と成体で歯の数に大きな違いが認められないとする報告もあり、歯の本数の変化は種類によって異なる可能性があります。
つまり、ナノティラヌスとされた化石の歯が多いという事実だけでは、独立した属であると断定することはできなかったのです。
このほかにも、前肢の相対的な大きさ、頭骨の形状、脳が収まっていた空間の形態など、さまざまな特徴が比較されてきました。
しかし、比較可能な化石標本には限りがあります。また、恐竜は成長に伴って骨格の形が大きく変わることもあるため、どこまでが年齢による違いで、どこからが種類の違いなのかを判断するのは、容易ではありませんでした。
2020年になって、大きな分析が発表されました。
2020年、新たな研究が発表され、議論は再び活気づきました。
この研究では、ジェーンと、もう一体の小型ティラノサウルス類の標本「Petey(ピーティー)」について、脚の骨の断面を詳しく調べました。
骨の内部には、木の年輪のように成長の記録が残ることがあります。研究者たちはその構造を分析し、これらの個体がまだ成長途中だったことを明らかにしました。
そして、両者をティラノサウルス・レックスの未成熟個体と解釈する研究結果を発表したのです。
特に注目されたのは、成長速度が一定ではなく、年齢や栄養状態などによって変化していたと考えられる点でした。
食物が十分に得られない時期には成長が鈍り、環境が好転すれば再び成長が進んだ可能性があります。
なるほど、興味深い視点です。
ティラノサウルス・レックスが生息していた白亜紀末期には、当然ながら、獲物を十分に得られない時期もあったことでしょう。
ジェーンたちも、そうした厳しい環境を生きていたのかもしれません。あるいは、同じ年齢の仲間と比べて、成長が遅かった個体だった可能性もあります。
想像は尽きませんね。
1980年代から続いてきたこの論争は、年を追うごとに「ティラノサウルス幼体説」へと傾いてきました。そして2020年の研究によって、その見解はさらに強く支持されることになりました。
長年続いた論争も、ようやく決着したのかもしれません。
今回の研究は骨の断面構造に着目したものでしたが、化石として比較的多く見つかる「歯」を対象とした研究がさらに進めば、新しい知見が得られるのではないでしょうか。
【2026年10月追記】終わったはずのナノティラヌス論争が、再び動き始めました。
ところが、です。
2020年の研究によって、長年の議論にようやく答えが出たかに思われたナノティラヌス。その分類をめぐる状況が、その後のわずか数年間で大きく変わることになりました。
しかも今回は、単に以前の説が蒸し返されたという話ではありません。
新たに発見された化石や、これまで知られていた標本の詳しい分析によって、ナノティラヌスはティラノサウルス・レックスとは異なる、独立した恐竜だったとする有力な証拠が相次いで発表されたのです。
2024年、独立した属であるという説が再び注目を集めます。
2024年1月、古生物学者のニコラス・ロングリッチ氏とエヴァン・サイッタ氏は、ナノティラヌスの分類について再検討した研究論文を発表しました。
研究チームは、頭骨や歯、手足などの形態的な特徴を改めて比較し、ナノティラヌスとティラノサウルス・レックスの違いを、単なる成長段階の違いだけで説明することは難しいと主張しました。
ここで、一つ重要な問題があります。
2020年の研究では、ジェーンたちが成長途中だったことが示されました。しかし、成長途中であることと、ティラノサウルス・レックスの幼体であることは、必ずしも同じではありません。
仮にナノティラヌスが独立した属であったとしても、当然、その恐竜にも幼体や亜成体は存在したはずです。
つまり、「まだ成長している」という事実だけでは、どの種類の恐竜なのかまでは確定できないのです。
2024年の研究は、こうした問題を改めて浮き彫りにしました。
もっとも、この段階では研究者の意見が一致したわけではなく、論争は続いていました。
2025年、Nature誌に掲載された研究が大きな転機となりました。
2025年10月30日、世界的な科学誌『Nature』に、ナノティラヌスの分類をめぐる重要な論文が発表されました。
研究の対象となったのは、米国モンタナ州のヘルクリーク累層から発見された、保存状態の非常に良い小型ティラノサウルス類の骨格です。
この標本は、トリケラトプスと一緒に発見された「Dueling Dinosaurs(戦う恐竜たち)」の一体としても知られています。
研究チームは、骨格の形態や成長記録などを詳しく分析しました。
その結果、この恐竜はすでに成体に近い段階まで成長していたにもかかわらず、推定体重は約700キログラムにとどまることが示されました。
一方、大型のティラノサウルス・レックスの成体は、6~8トン以上にも達したと推定されています。
大きさだけでなく、骨格にも異なる特徴が認められ、成長の過程もティラノサウルス・レックスとは違っていたと考えられました。
つまり、この小型の恐竜は、これから巨大なティラノサウルス・レックスに成長する途中の個体ではなく、もともと比較的小さな体を持つ、別の恐竜だった可能性が高まったのです。
さらに研究チームは、ナノティラヌス属には従来知られていたナノティラヌス・ランセンシスに加え、ナノティラヌス・レタエウスという別の種も存在すると提案しました。
もちろん、属の独立性と、そこに何種含まれるかという問題は別々に検証する必要があります。しかし、ナノティラヌスという属そのものを認めるうえで、この研究は非常に重要な成果となりました。
さらにScience誌でも、独立した属であることを支持する研究が発表されました。
驚くことに、重要な研究成果はこれだけではありませんでした。
2025年12月には、もう一つの世界的な科学誌『Science』でも、ナノティラヌスの独立性を支持する論文がオンライン公開されました。
こちらの研究で注目されたのは、ナノティラヌスという名前の基準となっている頭骨標本「CMNH 7541」そのものです。
研究者たちは、この頭骨とともに保存されていた舌骨装置の骨に注目しました。
骨の内部構造を分析した結果、この個体はすでに骨格の成熟に達していたか、それに近い段階だったことを示す特徴が確認されたのです。
これは重要な発見です。
これまでナノティラヌスの模式標本は、ティラノサウルス・レックスの未成熟個体だったのではないかと考えられてきました。
ところが、その標本自体がすでに成熟していたとすれば、成長途中のティラノサウルス・レックスだったという説明は難しくなります。
2025年のNature誌の研究では、新たな骨格から独立性を支持する証拠が示されました。そしてScience誌の研究では、ナノティラヌスの模式標本そのものから、それを裏付ける証拠が得られたわけです。
異なる標本を、異なる方法で調べた研究が、同じ方向の結論に達したことになります。
では、2020年の研究は間違っていたのでしょうか。
ここが、今回の論争で特に興味深いところです。
2020年の研究によって、ジェーンたちが成長途中だったことが示されたという事実は、今回の研究によって否定されたわけではありません。
問題となっているのは、その成長途中の個体が、いったい何という恐竜だったのか、という点です。
ナノティラヌスという独立した属が存在していたのであれば、これまでティラノサウルス・レックスの幼体と考えられてきた化石の一部は、別の恐竜に属していた可能性があります。
そうなると、ティラノサウルス・レックスの成長過程についても、見直しが必要になります。
幼い頃は細身で脚が長く、成長すると巨大で頑丈な体つきになる。そうした復元の一部には、実は別属の恐竜の特徴が含まれていたのかもしれません。
また、白亜紀末期の北米では、巨大なティラノサウルス・レックスと、それより小型のナノティラヌスが同じ地域に生息し、それぞれ異なる獲物を狙っていた可能性も考えられます。
想像すると、なかなか面白い光景ですね。
ナノティラヌスは、独立した恐竜だったのでしょうか。
2026年現在、ナノティラヌスを独立した属とする説は、近年の重要な研究によって強く支持されるようになっています。
ただし、すべての研究者が完全に一致したわけではありません。また、ジェーンをはじめとする個々の化石がどの種に属するのか、ナノティラヌス属に何種類が含まれるのかなど、検討すべき問題も残されています。
それでも、2020年当時とは研究の状況が大きく変わったことは確かです。
当時、長年の論争に一つの答えを示したのは、骨の内部に残された成長の記録でした。
そして、その後の研究でもまた、骨に残された成長の記録が、ナノティラヌスの独立性を支持する重要な証拠となりました。
一度は決着したかに思われた論争が、新しい化石と分析技術によって、再び大きく動き始めたのです。
古生物学の面白さは、まさにこうしたところにあるのかもしれません。
数千万年前の生物について、私たちは限られた化石を手がかりに、その姿や暮らしを想像しています。しかし、新しい化石が一つ見つかっただけで、長年信じられてきた見解が大きく変わることもあります。
ナノティラヌスは、ティラノサウルス・レックスの幼体だったのか。それとも、同じ時代に生きていた別の小さな暴君だったのか。
2020年には前者が強く支持されていましたが、2026年現在は後者を支持する証拠が大幅に増えています。
今後、新たな化石が発見されれば、この小さな暴君について、さらに意外な事実が明らかになるかもしれません。
化石は、まだまだ多くの秘密を隠しているようです。
参考文献
Woodward, H. N. et al. (2020). Growing up Tyrannosaurus rex: Osteohistology refutes the pygmy “Nanotyrannus” and supports ontogenetic niche partitioning in juvenile Tyrannosaurus. Science Advances. https://doi.org/10.1126/sciadv.aax6250
Longrich, N. R. & Saitta, E. T. (2024). Taxonomic Status of Nanotyrannus lancensis (Dinosauria: Tyrannosauroidea)—A Distinct Taxon of Small-Bodied Tyrannosaur. Fossil Studies. https://doi.org/10.3390/fossils2010001
Zanno, L. E. & Napoli, J. G. (2025). Nanotyrannus and Tyrannosaurus coexisted at the close of the Cretaceous. Nature. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09801-6
Griffin, C. T. et al. (2026). A diminutive tyrannosaur lived alongside Tyrannosaurus rex. Science(2025年12月オンライン公開). https://doi.org/10.1126/science.adx8706




























