ラスト1点、戦前・戦中の、重厚な装丁で整えられた鉱物標本セット（アンティーク） 鉱物 販売

先日ご紹介した戦中期のアンティーク鉱物セットに多くの反響をいただき、心より感謝申し上げます。実は、同時代に作られた鉱物セットが、もう1点だけ残っております。こちらは前回とは異なる会社が手掛けたもので、深い緑色の箱に、鉱石を掘り出す二人の鉱夫が描かれたクラシックな雰囲気の一品です。

重厚な箱を開けると、当時の説明書がそのまま残されています。「帝國鉱物教材社」の名が明記されており、学生向けの教材として販売されたものであったことが伺えます。時代背景を感じさせつつも、堅実に作られた教材であることが印象的です。

標本はいくつか欠けている鉱物もありますが、全体の90％以上が残存しており、アンティークとしては良好な状態です。鉱物そのものの保存状態も良く、分厚い箱や堅牢な装丁が長い年月を支えてきたのだろうと感じられます。現在の教材セットにはあまり見られない、丁寧なつくりが魅力です。

各鉱物の色合いや特徴は、今も当時のまま保たれているかのようで、自然物としての鮮やかさがよく伝わってきます。長い時間を経てもなお、鉱物本来の魅力がしっかりと表れています。

内部の構造もよく考えられており、鉱物の下には綿が敷かれています。学生が持ち運ぶことを前提に、衝撃に耐えうるしっかりとした造りになっているのが伝わります。学生への配慮が感じられる設計で、当時これを受け取った子どもたちは、きっと胸を躍らせたことでしょう。

標本には番号と鉱物名（ふりがな付き）、さらに産地まで丁寧に記されています。今よりも細やかな手仕事を大切にしていた時代ならではの仕上がりで、製作者の誠実さがうかがえます。

説明書の下部には「帝國鉱物教材社」と明瞭に記載があります。また、「国民学校初等科」との記述も見られます。国民学校令が敷かれたのは昭和16年（1941年）で、この制度では初等科6年＋高等科2年のカリキュラムが定められていました。この標本が用いられたのは初等科の学生に対してですから、小学校1〜6年生に相当する児童向けの教材だったのでしょう。 ある意味では、現代の小学生よりも手厚い教育を受けていたのではないか、とさえ思わせるほどの立派な標本セットです。鉱物の学習は、将来に直接役立つとは限りませんが、その人の教養や自然科学への興味を育てる大切な要素です。数値として成果に表れにくいため軽視されがちですが、こうした教育を重んじてきたことに、改めて日本の教育レベルの高さと、学問・学生を大切にしてきた姿勢を感じます。

箱の大きさは、縦約22センチ強、横約17センチほど。鉱物セットとしての学習価値はもちろん、当時の教材文化を伝える資料としても興味深いものです。程よい風格と落ち着いた存在感があり、アンティークとしての魅力もしっかり備えています。このような想いに共感していただける方に、大切にお引き継ぎできれば幸いです。