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- 南極の石は何が特別なのか? 氷の大陸に眠る岩石と地球の歴史
南極の石とは何か?

「南極の石」と聞くと、どのような石を想像するでしょうか。
南極でしか見つからない珍しい鉱物が含まれているのではないか。あるいは、普通の石とはまったく異なる特別な成分でできているのではないか。
そんな印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし実際には、南極の岩石をつくっている石英や長石、ざくろ石などの鉱物の多くは、世界各地でも見ることができます。
では、南極の石はいったい何が特別なのでしょうか。
その答えを探していくと、「一個の石」から、南極大陸そのもの、巨大な氷床、大陸移動、そして数億年・数十億年という地球の歴史まで見えてきます。
南極は「氷」ではなく、巨大な大陸である
南極というと、まず思い浮かぶのは雪と氷でしょう。
どこまでも続く白い大地、巨大な氷河、ペンギンたち。
しかし忘れてはいけないのが、その氷の下には巨大な「南極大陸」が存在しているということです。
しかも、その岩盤の大部分は私たちの目から隠されています。
英国南極観測局(BAS)が衛星データを使って調べたところ、南極大陸で雪や氷に覆われず岩石が露出している部分は、わずか約0.18%と報告されています。
つまり、私たちが写真で見る南極大陸の岩山や岩場は、巨大な大陸のほんの一部なのです。
そのわずかな露岩は、南極の地下にどのような大陸が眠っているのかを知るための「窓」ともいえます。
南極の石には、特別な成分が含まれている?
では、南極の岩石は他の大陸の岩石と成分が大きく違うのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
南極にも、花崗岩、片麻岩、堆積岩、火山岩など、世界各地で見られるさまざまな岩石があります。
石英、長石、雲母、ざくろ石といった、鉱物好きならよく知っている鉱物も含まれています。
ですから、
「南極産だから未知の物質でできている」
というわけではありません。
南極の石の面白さは、単純な成分の珍しさだけではないのです。
重要なのは、
その岩石が、どこで、いつ、どのようにしてできたのか。
そこに記録されている「地球の歴史」です。
岩石には、それが経験してきたさまざまな出来事が残されています。
地下深くで高温・高圧を受けた痕跡。
マグマが冷えて固まった記録。
巨大な地殻変動によって変形した跡。
さらに鉱物の種類や組み合わせ、年代などを詳しく調べれば、その岩石がいつ形成され、どのような環境を経験してきたのかを推測することができます。
いわば岩石は、大陸が持っている「履歴書」なのです。
そして南極の岩石を調べることは、南極大陸だけの歴史を調べることではありません。
そこから、地球規模の大陸移動の歴史まで見えてきます。
南極は、かつて別の大陸とつながっていた
現在の世界地図を見ると、南極大陸は地球の南端に孤立しています。
しかし昔からそうだったわけではありません。
南極はかつて、アフリカ、南アメリカ、インド、オーストラリアなどとともに、巨大な超大陸「ゴンドワナ」を構成していました。
その後、長い時間をかけて大陸は分裂し、それぞれが現在の位置へと移動していきました。
実際、南極の地質には南アフリカなど他の南半球の大陸と比較できる共通点があり、南極の岩石はゴンドワナの形成や分裂を研究する重要な手がかりとなっています。
現在は何千kmも離れている地域の岩石を比較すると、
「この大陸とこの大陸は、かつて隣り合っていたのではないか」
という、途方もなく大きな地球の歴史が見えてくるのです。
日本の南極観測と「オングル島の石」

日本人にとって、南極と深いつながりを持つ場所の一つがオングル島です。
日本の昭和基地は、南極大陸沿岸にある東オングル島にあります。
この東オングル島は、雪と氷だけの島ではありません。
国立極地研究所によれば、島の地表には片麻岩を中心とする岩盤が広く露出しています。さらに、かつて島を覆っていた氷床によって削られ、別の場所から運ばれてきた「迷子石」と呼ばれる岩石も見られます。
弊社でも、これまでにオングル島由来の実物の岩石標本を取り扱ったことがあります。
写真だけを見ると、一見、ごく普通の石のように感じるかもしれません。
しかし、その石があった場所を想像してみてください。
南極の厳しい自然の中、日本の南極観測の歴史と深く関わるオングル島。
そこに実際に存在していた岩石です。
産地が明確になるだけで、一個の石の見え方が大きく変わってきます。
南極の岩石を考えるうえで面白いのは、岩石そのものだけではありません。
先ほど触れたように、南極大陸の岩盤のほとんどは厚い氷の下にあります。
場所によっては、岩盤は何kmもの氷の下です。
当然ながら、そこへ行ってハンマーで岩石を採集することはできません。
現在では航空機による磁気観測や重力観測などを使い、氷の上から地下の地質構造を推定する研究も行われています。実際、厚い氷床の下に隠された東南極の地質構造が、こうした調査によって明らかになりつつあります。
そう考えると、南極で地表に露出している岩石は、巨大な氷床の向こう側にある大陸を直接知ることのできる、数少ない手がかりなのです。
「南極の石」と「南極隕石」は別のもの
南極の石について調べていると、必ずといってよいほど「南極隕石」という言葉が登場します。
しかし、この二つは区別して考える必要があります。
南極の岩石は、南極大陸そのものを構成している地球由来の岩石です。
一方、南極隕石は宇宙から地球へ落下した天体のかけらです。
南極では隕石が非常に多く発見されています。
これは南極に隕石が特別たくさん落下するからではありません。
国立極地研究所によれば、南極に落下した隕石は氷床の流れによって運ばれ、山脈などにせき止められる場所に集積することがあります。さらに雪や氷の上では黒っぽい隕石を発見しやすく、保存状態も良好です。
言ってみれば、
南極隕石が記録しているのは「宇宙の歴史」。
そして、
南極の岩石が記録しているのは「地球と大陸の歴史」。
同じ南極から得られる石でも、その意味はまったく異なります。
現在、南極の石を拾って持ち帰ることはできる?

現在の南極は、国際的な環境保護の対象となっています。
1991年には「環境保護に関する南極条約議定書」が採択され、南極は「平和及び科学に貢献する自然保護地域」と位置づけられました。議定書は1998年に発効し、日本でも1997年に「南極地域の環境の保護に関する法律」が制定されています。
現在の南極訪問者向けガイドラインでも、
岩石、化石、隕石などの地質標本を記念品として採集したり持ち帰ったりしないことが明確に定められています。
つまり、
「南極旅行へ行ったので、記念に石を一個拾って帰る」
ということは認められていません。
南極では、石ころ一個であっても、その場所の自然環境の一部として扱われているのです。
一方、日本国内には、現在の環境保護体制が整う以前などに南極から持ち帰られ、その後長く保存されてきた岩石標本が存在します。
観測や調査に関わった人が所有していたものが、数十年後に古いコレクションとして現れることもあります。
こちらは、弊社で取り扱ったことのある南極の岩石標本の一例です。
昭和59年(1984年)採集という記録が残されており、南極観測隊員が旧蔵していたものです。
このような標本の場合、鉱物としての特徴だけでなく、
「いつ、どのような時代に南極から持ち帰られたのか」
という来歴そのものも重要になります。
1984年といえば、現在の南極環境保護の国際的な枠組みが成立する以前です。
一個の岩石が、南極の地質だけでなく、日本の南極観測や南極との関わり方が現在とは異なっていた時代まで伝えてくれるわけです。
一見「普通の石」が、なぜこれほど面白いのか
南極の石には、必ずしも南極でしか見つからない特殊な鉱物が含まれているわけではありません。
一見すると、ごく普通の岩石に見えるものもあります。
しかし考えてみれば、それこそが南極の石の面白いところなのかもしれません。
目の前にある石英や長石は、日本でも見ることができます。
けれども、その石が生まれ、変成し、ときには巨大な大陸の一部として移動し、やがて厚い氷に覆われた南極大陸の一部となった歴史は、決して同じではありません。
そして現在、南極大陸の岩盤のほとんどは、私たちの目には見えません。
その意味では、一個の南極の岩石標本は、
氷の下に隠された巨大な大陸を、私たちが実際に見ることのできる小さな窓
ともいえるでしょう。
南極の石を手に取るということ。
それは単に「珍しい場所から来た石」を手にすることではありません。
その小さな一片を通して、南極大陸そのものと、私たちが暮らす地球の長い歴史に触れることなのです。




























